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2020.08.05
皆さん、耕知塾の小池です。耕知塾は金町、日暮里にある地域密着の、そして少人数責任指導の集団塾です。
【小さな哲学者の格言ノート No.3】
「知ることがむつかしいのではない。いかにその知っていることに身を処するかがむつかしいのだ。」
―司馬遷『史記列伝(一)』岩波文庫、31ページ
この前、丹野先生が「知識」について書いてくれたので、別の観点からの「知識」について書こうと思います。
学力テストで結果が出ない原因って何だと思いますか。
―その原因には、次の三つの段階があります。
① 必要な知識を「覚えていない(知らない)」。
②(必要な知識を覚えているのに)問題が「見えていない」。
③ いわゆるテストの「テクニック」が使えていない。
例えば、中2英語(不定詞)の場合で見てみましょう。
「彼女はピアノをひくことが好きです。」
She likes to play the piano.
この例文は、主語が「3人称単数」、動詞が「一般動詞」、そして「不定詞」の「名詞的用法」になっていますが、「3人称単数」とは何か、「一般動詞」とは何か、「不定詞」とは何か、「名詞的用法」とは何か、がわからないと、この文を理解することができません。
学力テストで結果の出ない生徒のほとんどが、「3人称単数」や「一般動詞」という用語の意味を知らなかったり、覚えていなかったりします。
すると、当たり前ですが、このような基本的な文さえ理解することもできなくなってしまうのです。同様に、(基本的なことしか教えない)学校の授業さえわからなくなってしまうのは、①必要な知識を「覚えていない(知らない)」からです。
だからといって、必要な知識の覚えるのに、理解をともなわない丸暗記では、一問一答式の問題にしか対応できません。また、こうした必要な知識を覚えていないのに、その先のことを優先する生徒が時々いますが、こうしたことをおろそかにする生徒は、学年が上がると伸び悩むことになります。なぜなら、必要な知識を「覚えていない」のに、目先の点数だけを追求しても、その場限りで、結局学力が身についていないからです。
いわゆる基礎基本とは、このレベルのことを言います。
次に、②問題が「見えていない」について、考えてみましょう。
問い:次の日本文に合うように、空所に適語を入れよ。
「彼女はピアノをひくことが好きです。」
She ( ) ( ) ( ) the piano.
おそらく不定詞を勉強したばかりの生徒は、この問題に対して「like to play」と答えるでしょう。というのも、習いたての「不定詞=to+動詞の原形」という知識から、この問題を見てしまうと、「ピアノをひくこと」=「to play」しか眼に入らなくなってしまうからです。この文は、主語が「3人称単数」なので、「一般動詞+-s(-es)」になります。改めて言うまでもありませんが、答えは「likes to play」になります。
こうした中2レベルの「不定詞」は「見えた」のに、中1レベルの「一般動詞(3単現)」が「見えない」ということは、実によくあるミスです。
こうしたミスをする生徒の特徴は、すぐに「答え」を出そうとするという点にあります。「不定詞」の単元をやっているから、「to+動詞の原形」以外のことは何も考えることなく、すぐに「答え」を出そうとしてしまうのです。たくさん勉強したのに、結果が出ない生徒の多くが、「不定詞」といえば「to+動詞の原形」というパターン思考でしか勉強していません。それで、例えば、上記のような複合的に知識を問う問題には対応できないわけです。
では、こういう場合はどう勉強すれば良いのでしょうか。
すぐに「答え」を出すのではなく、問題から「手がかり」を探すような勉強をしていくと良いでしょう。
必要な知識を使って、問題の中から「手がかり」を探していくと、主語が「She」で「3人称単数」なので、動詞の「好き」(like)に「-s、-es」をつけなければならないとわかります。つまり、「She」と「好き」(like)は「答え」を出す「手がかり」と考えるわけです。次に「ピアノをひくこと」という「手がかり」から、「不定詞」の「名詞的用法」だと判断して「to play」を導き出せば、正解にたどり着くことができます。
学力テストで結果の出る生徒は「必要な知識を使って、問題を見ていく(「手がかり」を探す)」という思考がスムーズに流れているので、「正確に」、しかも「素早く」問題が解けるのです。
最後に、③いわゆるテストの「テクニック」が使えていない、です。
以下は、都立高校入試(平成18年度)で出題された問題(英語)の選択肢です。
ア(A)bag (B)paper bag
イ(A)paper bag (B)plastic bag
ウ(A)furoshiki (B)plastic bag
エ(A)bag (B)furoshiki
まず(A)を見てみましょう。
アとエは「bag」、イは「paper bag」、ウは「furoshiki」となっています。
ここで、もし正解が「bag」ではないとすると、本文の(B)を読むまでもなく、イ「paper bag」か、ウ「furoshiki」かが決まってしまいます。
出題者の心理から考えると、(都立高校入試の)出題者が(B)まで読まないで良いというような問題を出すことは、通常考えられないので、おそらく(A)は、アかエが正解になるだろうと推測できます。
次に「本文」の(B)部分を見てみましょう。
James: What? A cloth?
Midori: It’s a ( B ).
なんと、この問題には、本文の最後に「注」がついていて、「注:cloth 布」とあるので、一瞬で(B)は「furoshiki」だと判断することができます。つまり、正解はエです。
こうした「選択肢から先に見る」という「テクニック」ほかに、「解けそうな問題から解き始める」とか「3分考えてもわからなければ、次の問題を解く」などの「テクニック」があります。
もちろん、こうした「テクニック」によって、(生徒の)学力が上がるわけではありません。ですが、テストの「得点力」が上がることは見込めます。やはり(入試を含めた)学力テストがテストである以上、テスト用の「テクニック」は必要だと思います。
気持ちやプライドから「テクニック」を邪道と見下す人もいますが、特に(得点で合否のある)受験の世界では、「テクニック」を使わないことによって「損」をすることがあることも事実です。ですから、「テクニック」も馬鹿にせず、「得点力」を上げるためのトレーニングしていく必要があります。
今、コロナ禍でICT教育が注目されています。タブレットなどを使って、人から教わることなく「知識」を知ることができます。ですが、上に引いた司馬遷の言葉通り、「知識」を知ることと、「知識」を「学力」として身につけることは別の次元です。「知識」を「学力」に変えるためには、塾の授業などで、「知識」をていねいに教わって、演習で「知識」の使い方や「テクニック」を繰り返し練習していかなければなりません。
※司馬遷は、中国前漢時代の歴史家で、『史記』の著者。『史記』は中国の歴史書として最高の評価を得ているだけではなく、文学としても高く評価されている。